【取引先との交渉 退路などありません】

骨を拾ってください

 芝浦にある、アパレル最大手の会社との事です。入社5年目でした。

 その大手の会社の名前を冠したセールが企画されていました。「○○ワードセール」と言えば、当時多くのお客様の集まる一大イベントのような催事です。

 売場ごとの展開で実施されます。それぞれ目標があって、ブランド展開も売場ごと、私の売場でももちろん取引があり、準備を進めていました。

 納品の日程も先方からきまます。関わりのある若手が一斉にその荷受けに倉庫に行き、商品整理をして品出しできるようアソート、店頭出し分とストック分を整理します。その後、本店に輸送。

 その荷受け、納品の時の出来事です。これは○○売場分ね、これは○○売場だよなんて言いながら、Zラック一杯の商品が何本も降ろされていきます。そうしたら最後の最後まで私の担当する売場の商品が無く、納品がありませんでした。

 一大事です。運輸の方に聞くこともできず、先方に連絡します、私の売場の商材がありません、何か間違いがあるのでは?と。

 先方からは、ブランドの担当に直接聞いて欲しいという回答。おかしな話です。タイアップなので、取引先と百貨店とで、窓口を作り運営しています。直接のブランンド担当の話ではありません。

 ただ、何となく嫌な予感がします。窓口がある意味が無い流れ。仕方なく、連絡すると、「発注受けていないので、無いんです」とその営業担当は言うのです。

 若い私は、それで頭に血がのぼり、怒り出します。「社と社で話し合っての動き。それぞれ窓口のある話。それで催事をしようとしているのに、個別の発注の有無を言い出すなんて、理屈に合わないです。それに他の売場担当発注依頼してないじゃないですか!、それでも皆、納品受けてますよ」って。

 先方はそれでも一点張り。社と社の約束事で動いているという私の主張を聞いてもらえません。日を改めて連絡することにします。

 その後もらちが明かず、結果、先方に行くことになります。「そちらまで(芝浦まで)発注しにいきますよ」と、私が啖呵を切ったのです。つまり、乗り込んで商談、談判です。若さに任せた結構な勢いだったと思います。

 

 場所は芝浦。だっ広いグレーのフロアの一室で、話しに決着をつけます。

 先方のベテラン営業担当が言い出します。「前任のバイヤーのやり方が気に入らず、大きくぶつかった、その際に今後協力しないと伝えると、結構だ!くらいの反応で、もうこの売場に協力しないとその時決めた・・・」というのです。

 事情が分かると何だか、ばかばかしい。前任の担当の禍根でした。

 ただこちらの事情は大きく異なっていて、人事異動で、バイヤー、マネージャー、中堅のスタッフ、私とメンバーの主力が変っていて、事情を知っているのは入社2年目のスタッフくらい。

 それじゃ誰も経緯も知らず、何も分からないはずです。
 ※会社戻って、2年目部下に事情を聞いたら、そうした経緯覚えてません・・・だって、正直アンテナの張り方低いなと思いました。

 当時の私の上司は、普段から基本に忠実、ルールを守り、原理を守って商売をするタイプ。しかも商売に詳しい上司ばかり、そのメンバーならもめる要素が全くありません。

 今の売場の事情を伝え、先方から今後の取引の正常化を獲得しました。

 入社5年目のスタッフです。その交渉の動きは、思いの外、大変な事柄です。相手も老練なベテラン営業。中々、私の感情だけではまとまりません。論点まとめて商売について話す必要がありました。怒り心頭でしたが・・・。

 ただ、結果はOK。私は大きく安堵したのを覚えています。退路を断って、交渉に行ったのがよかったのかもしれません。行く前にどうするといいのかと考えますから。

 実は休みの日を使って、先方に行ったのですが(今はそういう休日の使い方は推奨されませんが・・・)、連絡報告相談は大事。行く前に報告で、事の経緯と今後の対策を先輩、マネージャー、バイヤーそれぞれに伝えていました。

 その時です。私が報告とともに「行って話合いに玉砕したら。骨を拾って下さい」と言ったのは。今思うと、良く行かせてくれたなと思います。

 相手はアパレル最大手のベテラン営業です。負ける確率が高い話合いです。それでも先輩上司たちは、売場所属の若手の大ゲンカくらいは問題ないと思ったのでしょうか? 思いのある突撃なら認めようということでしょうか? それとも、思ったことはやりなさい、後のことは心配するなという思いでしょうか?

 器の大きい先輩上司達です。取引先の営業担当はその後かえって協力的になります。ケンカの後仲良くなるの典型です。

 「死しして屍拾う者無し」というバイヤー業をする数年前の出来事でした。

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