【物を見たのか!】

商品を語る

 品揃えを行う時に、どんな物を発注するのか悩みます。どの商品を仕入れるのか。お客様、マーケットの変化、販売手法、プロモーションの有無など、影響のある事柄を考察し、色々悩みます。そうした物についての話です。

 私の百貨店入社間もない頃の話。取引の条件とか、取引先と友好関係であるとか、物以外の話をすると、上司から「お前!物見てるのか!」と喝が入ります。

 特に若手の百貨店マンが、権限委譲で発注する時は尚更です。ですので、品揃えを語る時は、物の話をします。商品特性や、デザイン、クリエーション、マーケットとの整合性など含めて、誤解のない解説を上司にして、委譲された権限を行使します。

 「物を見たのか!」と言われるのが分かっていても、ついつい取引の有利不利ばかり話しているとこの喝が入ります。「物を見ているのか!」と。

 小売の基本で「誰に」「何を」「どのように」「いくつ仕入れていくつ売るか」の「何を」の項目です。大事な項目ですので、喝が入って当たり前です。

 数年経ち、私が出向時の話です。アウトレットの話。

 その当時の理解で、アウトレットは「在庫処分」の業態、ディスカウントは「低価格販売」の業態、もちろん百貨店は「定価の業態」と理解していました。

 日本にアウトレットができたのは、1990年代後半だったと思います。私が20歳後半の時でした。場所は鳥浜、神奈川県の金沢区、本格的なアウトレットとしてオープンしました。

 当時私は、会社の研修で何度かニューヨークで視察を経験していました。アメリカでは、アウトレット業態が郊外に次々にできていた時代です。アウトレット間の競争も激しい状況でした。ニューヨーク研修ではアウトレット業態も研修の視察に入っていました。

 現地の解説では、

 アウトレットは本来は「在庫処分」だが、残った在庫だけで魅力的な店頭展開ができないから、メーカーはアウトレット用の商品を作って展開している。物の品質を見ればわかると思う。

 アウトレット価格で商材を挿しこむと言っても、どんなに上手に商材を作っても、プロパー品からきた商材と比べたら、アウトレット用に作った物では、品質に違いが出るのは当たり前。

 きっとそのうち、低価格の価格通りの品質の商材の投入では、お客様の方がきっと魅力を感じなくなると思われる。品質の差が明らかなので、客様を騙せなくなるよ・・・。価格から感じる価格以上の価値を見出せなくなるという事・・・と。

 かなり早い段階で、アウトレット用の商材投入の功罪を聞きました。

 確かに「在庫処分」の商材のみで、魅力的な店頭展開はできないし、在庫処分価格を前提に作った商材の投入があるなら、品質の差が明らかな商材が混在します。

 買う側からすれば、選びづらいのでは?と思いました。もし、自分がお客様としてアウトレット用の商材を購入したら嫌だなとも感じました。

 ビジネスの舵取りの難しさに複雑な思いがしたのを覚えています。

 その当時私は、研究所に出向中で色々な講習会に参加していました。もちろん新業態などの内容です。私の主な業務は市場分析です。

 鳥浜のアウトレット開発の経緯を内容にした講習会に参加したのはそんな時です。日経消費研究所の企画だったと記憶しております。講習会後の質問の時間に、アウトレットのビジネスの難しさを上記の経験から質問。

 「品質が明らかに異なる商材の投入が前提でないと、ショップの維持が難しいのでは」と質問しました。

 講義者のアウトレット開発担当者は「私も何度もアメリカの現地視察をしましたが、物の違いはわかりませんでした」という回答でした。

 その時ずっと言われていた、「お前!物見たのかよ!」の言葉が頭をよぎります。

 素材、縫製、デザイン、お作りそのものの精度、着やすさ、トレンドの入れ方、マーケットへの提案性、クォリティコントロールなど語るものは色々あります。

 講習会の講師の開発担当者と、私の様な品揃え実務経験者との間には、こんなにも感じることが変わるのか、業務の上で物を語るかどうか、物に携わるかどうかで、何を視察で見るかも、こうも異なるのかと思いました。 ※開発担当者は不動産ビジネスの方だったと思います。

 その後日本では、アウトレットが沢山できましたが、アウトレット用の商材だらけのショップを散見するようになりました。

 今から20年以上前の考察通りとなった訳です。なので、私はアウトレットに行った際には、本当の意味で、お買い得のものを探すようにしています。

 更にその後、私が仕入れ担当(バイヤー)になると、あの時の先輩たち同様に若手相手に「物見て言っているのか!」と何度も発言する様になります。

 私には、何年経っても「物を見たのかよ!」の声が聞こえてきます。

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