【東京駅は、関西です】

おかしな回答で、オリジナル商品を断られました

　2000年代初めのことです。百貨店本店で高級婦人服の仕入れ担当だった私は、取引先に対して、百貨店オリジナル商品を作るようよく依頼をしていました。

　仕入れ担当ですので、ファッションディレクションを参考に仕入れ強化商材を選品します。プロモーションに乗せる必要があるなら、ファッションディレクションを説明し、百貨店のファッションの展開方針を解説、注力したい仕様の商材の傾向を語ります。

　ディレクションに沿ってもらおうと、先方の物つくりで不足の商材があれば、補う商品を依頼するのを日常的に行っていました。自社商品にスポットが当たるならという理由で、取引先からオリジナル商品を作りましょうか？と提案をくれるところもあります。

　もちろん、周年祭のような記念的なプロモーションやファッション強化週での訴求用にオリジナルをお願いすることもあります。そこに来なければ、購入できない魅力的な商材を用意する事で、お客様の来店の促進、商品そのものの売上、来店が叶う事での関連販売で、実績向上するのが狙いです。

　そうした中、ライセンスブランドを展開する取引先に同様にオリジナルを依頼しようと思う場面がありました。その取引先は、ライセンスの制約もあり、本国承認が取れないという理由で、こちらからのオリジナル商品を何度も断っていた経緯があります。

　依頼するたびに、今回も駄目だったなぁという感想を持ちながら、自身の熱意不足なのか、デザインや仕様が気に入らないのかなぁと悩みながら帰店したものです。

　もちろん他に応じてくれる先も沢山あります。結果も出していました。ですので、オリジナル作成での商売で、先様に損させることなくできるという確信は常に持っていました。

　その取引先では、何度も提案していたのですが、また駄目か、今回も駄目かと、中々思いが叶いません。取引は関係も悪くなく、先方は良心的な運営をしていて、信用しています。全く問題が無いわけではないのですが、良い関係だったと思います。そんなこともあり、私は特別品を切り口にそのブランドを社のプロモーションにのせたかったのです。

　そんなある日、大阪出張がありました、業務終了後は在阪の有力店の視察をします。関東とはちょっと異なる展開があったりして刺激になります。有力店が多くあるので、先を行く品揃えも見られます。パンフをもらったり、ビラをもらったりしながら回遊します。

　そんなパンフの中にオリジナル商品の紹介ページがありました。その時、常にこちらの提案を断っている、その取引先の同じブランドのオリジナル商品を見つけるのです。

　すぐ連絡を入れます。ライセンス承認ができないという理由なら、どこの百貨店でも同じはず、何が違うのかと。

　そうしたら、思わぬ回答、「大阪の営業部が作ったので、東京の営業部とは異なる動きなんです」と。

　私は、「大阪と東京で違っていてもライセンスの承認業務は一緒ですよね、東京でも承認取ったら良いじゃないですか」と言い返します。すると上司から回答させるという事で、電話を待ちます。

　しばらくして先方の役員からもらった電話で、おかしなことを言いだします。「あれは関西だけの事情で作ったもので、その事情は東京ではあてはまらないんですよ、関西だけでやっているローカルな事で、東京ではできないことなんです」と。

　私はライセンスの承認の話で、同様の主張をするのですが、「関西だけなので・・・」を繰り返すばかりです。取り付く島もないとはこのことで、いったん電話を切りました。

　その翌日、そのパンフレットをよく見ると、別ページにそのオリジナル商品の展開店舗が書かれています。店舗名の羅列だったと思います。そこに「東京店」の文字を見つけました。

　再度その役員に連絡します。「パンフに、東京店で展開してると書いていますよ」と。東京店での展開なら、関西だけの特殊なルールではなく、全国展開、地域に関係なく展開できる証拠です。

　その時の回答が今回の主題、「その東京店は、関西です」という回答です。私は「東京は関東です、東京店の所在地も東京駅なので関東です！」と強く主張しましたが、先方は折れません。「東京駅の東京店は関西です・・・」は、全く意味が解らず、困惑しました。

　しかしながら、その発言を全く曲げないのです。私は「東京駅の百貨店は東京にあるんですよね」と何度も言いました、でも、同じ回答、堂々巡りの末、私は根もつきて、諦めました。

　諦めて良かったのか悪かったのかは、判断が分かれると思います。ただこんな乱暴な主旨の発言をしてでも、オリジナルは作れないという主張があるのだという事だけが分かったのです。

　なんともはや、毎回主張していた本国承認という理由はどっかに飛んでいきました。不思議な出来事でした。