【新ショップの商品力 物作りに?です】
新ブランドの展示会で お客様視点で考える 誰に売るか?
新規ブランド導入が、上司と取引先の役員とで決まった時の話。お客様本位の物作りでない商品の話です。
2000年代半ば頃、新ブランド導入がトップダウンで決まったと知らされました。兎に角、展示会で物を見て来い、というのです。乱暴です、物も見ないで、導入を決めるのですから。
バイヤー業をせずに上層の立場になると、そうした判断もしがちです。物ありきでの業務に関わることの大事さをそうした時により強く実感します。
商品はブラウスとシャツ。その取引先が総合アパレルになる前、アイテム専業の商売で大きくなった創業時を思い出し、そのアイテムショップを作るというのです。
餅は餅屋といういう言葉がある通り、専業のアイテム商売をしていれば、物つくりには一日の長があります。初めてみる商品はどんなものか、決められた事とは言え、期待をしていない訳ではありませんでした。
会場では見知る顔はありません。取引のある会社でしたが、新機軸で、創業時の精神での新ブランドですから、新規メンバーの取組みだったのかもしれません。
商品説明を受けます。一つ一つ畳んであるブラウス・シャツをしっかり広げて見ます。自分のお店のお客様の代わりに商品を選品するのだ、という気持です。
すると、見れば見るほど酷い作り。畳んで置いている時の、見栄えだけの商品です。
具体的には、まず、ボタン位置。第一ボタンと第二ボタンの開きが極端に狭く、それでいて第2ボタンと第3ボタン位置にはとっても開きがある。
女性で第一ボタンまでしっかり閉めて着る人は、かなりの少数派です。大体第一ボタンは閉めません。その方がネックレスなどアクセサリーが見えて、首元が華やかに見えます。
なのにそのブランド、第2ボタンが詰まっている。それじゃアクセサリーも何も見えません、
仕方なく第3ボタンまで開けるとなると、今度は開きすぎで、下着が見えてしまう。誰がこんなデザインしたの? が初インプレッションです。
しかも、ボタンそのものに厚みがあって、メンズで流行った仕様とよく似ています。なのに、ボタンホールはそのままの幅。
ボタンの直径と厚み幅を見て、ボタンホールの幅を決めればいいのに、直径しか考慮されていません。着脱に時間がかかります。
着づらく、脱ぎづらい服なんて、誰がそんな商品を求めますか?私は、真っ先に「ザイナーは男性ですか?」と聞きました。
女性がデザイナーなら、普段来ているシャツやブラウスにそんなデザインするわけないですから。そうしたら「どうしてわかるんですか?」って。物からの情報でわかりますよね。
続けて、質問や意見への回答を得ます。ボタンの開きは、言われてみればその通りという反応でした。サンプルチェックの際にも誰も指摘しなかったというのです。恐らくこうなると、MD担当も男性でしょう。
ボタンの厚みに関しては、メンズの流行を真似たのだと言います。この時私はお客様の代わりに怒りがこみ上げてきました。
流行でメンズのシャツに厚みのあるボタンが使われたのは、ボタンの素材の貝が薄く削れず、厚みのあるボタンしか作れない時代があり、その時代感を出すためのもの。なので、今の技術では薄く貝を削れるのを、わざと厚みのあるボタンを採用しています。
そんな情報も確認しないで、ただ姿だけ真似て、とっても脱ぎ着しづらい商品作るなんて、「誰見て物作っているのか!」って思います。
そもそも男性はそうした蘊蓄(うんちく)が大好きです。ただ女性で「時代的に厚くしか貝を加工できなかった時代があって、その時代感が今の流行で、このボタン、その時代の雰囲気があるんだよねぇ」なんて、ボタンで会話する人います?
はっきり言って、そんな蘊蓄(うんちく)女性いません。そんなことも考察せず、新規導入の取引先に商品紹介するなんて、何て杜撰な物作りかと思います。
実は、そんな会話をしている際に私の声がどんどん大きくなったのか、会場にいた関係者が集まってきて、私を囲むようになりました。何だかみんなで私の話を聞きに来ているような状況。変な構図ですね。
でも、役員同士で新規オープン自体は決まった話。暗澹とした気持になります。導入がきまっていますから。
後日談です。そのショップがオープン後直ぐ、私は支店へ異動。後任にバトンタッチします。ショップ実績の結果は大苦戦。一年半でブランドそのものが、休止になりました。
お客様を見ないというか、ただただ勝手なトレンド提案さえしていれば、勝手にマーケットがついてくるとか思ったのでしょうか?
その取引先の創業時代(ブラウスで大きくなった)の影を引きづりながら、反面教師でしかないこのブランドはこの世から無くなりました。
リテールの基本の「誰に」「何を」「どのように」「いくつ仕入れて、いくつ売るか」という「誰に」がぶれていたら、それ以外の基本項目がどんなに優秀でも、ヒットするはずないですね。
この話、ずいぶん以前の話ではありますが、今でも、十分に教訓になる話と思います。