【平場の真ん中にフィッティングルームを置く】

いちゃもんに近い要望を受けるまで

 2,000年代半ばのことです。支店の仕入れ担当の私は、ミセス婦人服カテゴリーも担当していました。最も一般的なプライスラインのご婦人様のお洋服です。百貨店のマスのお客様のお洋服と言えます。

 そのブランド、展開はショップ形式ですが区画を持たず、什器だけで仕切られた、いわゆる平場の展開です。その時、平場には3つのショップがあり、更に隣接した平場の先は、セーターブラウス&ボトムスの編集平場でした。どちらも私の担当です。

 3つのうち2つは大手の取引先です。友好な関係だった1社と、何でも文句を言いたがるもう1社の取引先のブランドで構成されています。良好な関係でないとこんなことが起きるのかという事柄の紹介です。

 その取引先は、英国のチェックで有名なブランドをライセンスで製造販売していました。

 支店といえど、その有名英国のチェックモチーフのブランド展開もあったのですが、ある時、コンペジターブランドが無く、売上も小さい、ライセンスが通らないという理由でブランドが休止になりました。

 同じ会社のミセスブランドにそこの店長が異動になるのは、その休止後です。その店長が問題で、チェック柄、ブランド認知の高さに頼って商売していたので顧客が無いというのです。

 支店規模の運営だと、どんなに規模の小さな館でも、館内のショップは顧客を持って商売しているものです。特にそれなりの価格のする商品を扱うところでは、当然の成り行きで、日々顧客作りに励むのが一般です。

 なのに呼べるお客様がいない!困りました、取引先の腹積もりでは、その休止ブランドからの店長の異動をきっかけに平場のミセスブランドの実績向上を図りたかったのが透けて見えていました。ところが水泡です。

 私は、こうした経緯を経験したからこそ、常にスタッフさんの日々の取組み、基本的な行為や事柄にこだわるようになります。

 しかしながら、その取引先は、売上の苦戦を館のせいにしだしました。本当に困ったものです。チェック柄や認知の高さに頼り、顧客も作らず、ファーストアプローチのタイミングもなく、待ちの姿勢で仕事してきた店長の仕事ぶりより、館が悪いとは。

 その指摘があっているなら、平場で隣接する隣のブランドが好調に推移するはずありません。比較検討もできないのか?と先方の指摘には辟易していました。

 そんな中、私にとっては更に悪い追い打ちがあります。その取引先、本店のMD統括部長にその不満をぶつけ、全く直線ではつながらない方面から圧力をかけてきたのです。

 支店の店長から営業部長まで動き出し、現場の事情を私に確認してきます。正直に事柄を伝えます、しかし、社と社の関係はそんな事情を汲んでくれないのです。

 上司曰く「支店での取引を先方では乗り気ではないが、本店や今までの経緯を尊重して取引してくれているのだから、先方の言う通り、何としても売上を上げる施策を打たなくてはならない・・・」と。

 ばかばかしいです、支店の平場の10数坪の展開が、本店巻き込んで取引そのものの姿勢が問われている、というような考えです。はっきり言って「そんなわけないだろう、先方は思惑が外れてそのブランドも休止したいだけでしょ!」てな感じが本音かと推量できます。

 しかも、異動で据えた店長が現場力、販売技量が低いなら、売れなくて当然。それを見抜けず人事異動しておいて、何を言い出すのかという気持ちで一杯です。

 その後、支店の上司たちと先方の営業責任者、更にその上の方との商談です。もちろん私も同席。そこで話し合われたのが、ロケーションとかレイアウトとか、はじめっから分かっていた事柄への不満です。

 更に、先方から提案がつづきます。レイアウト変更して、それをきっかけに実績向上を図りたいとの事。私が現場担当として、レイアウトが原因の苦戦ではないとほのめかしても聞くはずありません。

 商談後その来店した取引先の方々がレイアウト変更を実施します。自分たちで実施して、実務を行い改善してきたとか、自身たちの上司にでも報告したいのでしょうか。私は遠目で観察、様子見です。先方さんしばらく売場をいじっていました。

 私は終わったころを見計らって現場を見に行きす。そしたらびっくり。平場の真ん中にフィッティングルームを設置していきました。センス全くない。

 柱巻きに寄せるとか、レジ機能のそばに置くとか、どこでもやっている、おさまりの良い姿ではないのです。見てすぐ「売れるはずないな」と思います。

 そのあとすぐ上司に相談。「あんなおかしなレイアウト変更したい」と申し出ます。上司からは「しばらく、我慢するしかないな、あれじゃ売れないと思うから、それを理由に元も戻したらいいよ」と。結局上司も同じことを感じています。

 隣接の好調ショップの店長からは、「なんであんなところにフィッティグ置いているの?おかしいんじゃない」と何度も言われます。みんな同じことを感じています。

 そんなセンスの無い要望をした取引先は、現在、会社が大変な苦戦の中にいます。こうした経験をする中で、現場が大事にする基本の姿を志向しない先の、たどり着く姿をこの十数年かけて見てきたような気持になります。

 改めてファッション販売に関わる人材の姿勢というか、現場との関わり方、現場との距離、現場での出来事を正しく把握する事の大事さを思うのです。

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