【タッチ販売】
今はもう、やっているところは無いでしょう
2000年代初めの話です。私がフォーマル売場の仕入れ担当をしていた時の話です。その時初めてタッチ販売の存在を聞きました。
もしかしたら過去に聞いたことがあったかも知れません。ただ、はっきりと認識したのはこの時です。
現場での事情はどうあれ、このフォーマル売場でのタッチ販売は、物を売るものとして、怒りの心情を禁じえなかった事を覚えています。
フォーマル売場では、来店したお客様はどうしても購入前提での来店になりやすいです。そういう買い方を目的買いという言い方をします。
結婚式が予定にあるのでカラーフォーマルを吟味するとか、法事があるとか、もしかしたらお葬式があるのでは・・・というお客様の事情があっての来店がほとんどです。
昔から、お葬式前に準備するようにブラックフォーマルを購入したりすると、本当にお葬式になるから縁起が悪い、なんて言う方もいますが、実際には、もしそうなったら式典服が無いというのが、強い来店動機です。
売る側の意識はどうか?概ね購入に至るお客様なら、決済率はかなり高い。予算やデザインの提案とどんな式典か、そうした時の知識のご紹介さえ間違えなければ、概ね購入に至る、しっかり接客しなくてはって。
しかし、フォーマル売場には数社から派遣スタッフが入っています。だれでも自社商品を紹介したいもの。でもお客様の要望は必ずしもその取引先の商材ではないかもしれません。しかし接客できれば、ほぼお買い上げ、悩ましいところです。
そこで現場の派遣スタッフが考え出したのが、タッチ販売です。フォーマル売場に来店したお客様が最初に触った商品のメーカーのスタッフが接客権を得て、よほどの事情が無い限り接客し続けるというルール。
そのスタッフは自社商品を薦めて、購入してもらうというもの。その間、他の派遣スタッフは一切関わりません。
大手取引先の営業担当はそのため、お客様が最初に触りやすいところへの展開を要望します。最初に触ってもらえれば接客ができ、実績が上がるから。
その販売現場の暗黙のルールの存在を知っ時、あきれるというか、怒りの方が先に立ちました。
品揃え全体を見てもらい、メリット、デメリットを知り、金額などの条件と合わせて、お客様に最善の提案をするべきなのに、売り手の理論だけで動き、商品提案自体の幅を狭くするなんて、どういう了見なのかという思いです。
仕入れ担当として現場にタッチ販売の禁止を指示しました、ただ抵抗が心底強い。
派遣スタッフの販売における熾烈なお客様の取り合いが起きて、関係も険悪になり、売場として雰囲気まで悪くなる、成り立たなくなるという売る側だけの理論での反論です。
せめて機会均等という事で、時間帯でどこのスタッフが接客するかを決めてもいいか?と。時間帯で準繰りで交代での接客。どこにお客様視点の考えがあるのでしょう?
その時、そのフォーマルの主導的な最大手の取引先ブランドの休止を心に決めたのでした。
丸1年かかりました。社内でも上層ほどその会社との関係が深く、現場の責任者まで休止を確約したのに、芝浦方面から来た役員が社の上層と話をひっくり返して帰るなんてこともありました。
上司は激怒りで、決まった話と言っていたのに、決まっていないじゃないか!と。それでも1年かけてその思いを遂げます。
私はお客様の代わりに戦っているという意識です。その際、一社分の空きに新規の1社を導入します。私がアポなし、縁なしのその会社に飛び込みで展示会に行ったところからの動きでした。
結果的にはその会社と友好関係となり、数年後にはその会社が社のフォーマル売場の主な取引先になります。
フォーマル業界に不振が理由の事業終了が続き、先方の事由での撤退の動きが続くというのが理由と、新規導入の取引先の商品力が理由です。なので新規のその取引先は不振続きの業界の中で結果を出し続けていました。
その新規の会社の担当者は、タッチ販売の話をした際に笑っていました。今時そんなこと続けているところってあるんですね、って。
私と同じ考えを持っていたのです。お客様にとって売り方で裏切るようなことをしたらいけないと。業界で生き残るはずです。
思考が健全だと私は思いました。なので、導入時は上層の反対が大きかったのですが、説得を続けて導入しました。
もちろん反対の理由は、最大手を休止して別の取引先しかも、新規導入を行ったのでは、比較して優劣付けたのも同じなので。
転職してもその会社の担当者とは繋がっていて、取引が無いにもかかわらず、業界の情報交換を続けています。お互いに馬が合ったとも言えますが、お客様に対しての考え、お客様本位でいることが理由だと思います。
当時は私は、本当に良い同志に巡り合った気持ちで一杯でした。その後、二度とタッチ販売を見ていません。