【これ以上売ってもらっては、困るんですよ!】
有効な手段で実績向上したら、苦情をもらいました。
「これ以上売ってもらっては、困るんですよ!」ショップ店長と取引先の商品企画担当者と力を合わせて、売上全国1番店になった時に、取引先の営業責任者から言われた言葉です。2000年代初頭の話です。
売上を上げたいのは、百貨店のバイヤーなら当たり前のことです。色々な方法を考えては、実践し有効な手段を選びながら実績伸長を目指します。
現場の店長ともコミュニケーションを密にし、自分が何をしたいか、そのために取引先(店長が所属する会社、いわゆる本社)とこちらのマーケットに合わせた品揃えを要望をし、品番毎に仕入れの数量を増したり、商品に合ったプロモーションを提案します。
その結果、実績伸長なら関わる方々から喜ばれ、現場のモチベーションアップにも繋がります。百貨店バイヤーは必死です。基本、商品軸からのアプローチでショップの実績を伸ばそうとします。
会社では、扱いアイテムに最も詳しいのが、担当バイヤーという前提がありますから、商品を軸に動きます。物作りから、仕入れ、商品にあった接客、商品にあったプロモーションを提案し、吟味します。今回の話のショップも同様でした。
取引先の商品企画チームとは、展示会前に商材のサンプルを見せてもらい、物作りの方向性の相互理解や、品番を指定して在庫を厚くしたいとか、ドロップして欲しく無い品番を要望します。
同時に、サンプルの修正点を指摘して、どこをどう直すとより売れる商材になるかなど話し合います。
品揃えの厚みも話すので、商談後は、そのショップ店長にフィードバックします。ショップの店長が私の考え、方針に賛同しないなら、実施しても上手くいかないからです。
当時の私の担当は、婦人特選売場でした。百貨店の特選のお客様は百貨店全体で見ても、その百貨店のヘビーユーザーです。館全体をくまなく利用するお客様です。自分の買物、夫の買物、子供達の行事、家の行事、式典などあると、その百貨店で御用向きを果たします。
そんな消費の余裕のあるお客様はファッションも積極的にお買い求めします(2000年代初頭の傾向)。家のワードローブには沢山の服があり、ちょっと面白いけど、人前で着られる様な定番性も持ち合わせている物を求める傾向がありました。
消費に余裕のある方は人の集まるところに参加するライフスタイルを持っているので、スタイリッシュであり、個性を感じられる服で、安心感も同居していないと琴線に触れません。
そのマーケットを前提に、取引先のブランドテイストを活かしながら、色々と提案をします。商品軸からのアプローチで有利な品揃えにし、ショップ店長と話し、顧客様の傾向の確認をし、その顧客様や新規客を想定してプロモーションを差し込みます。もちろん館内VPスケジュールから装飾面の応援をします。商品から全て動かそうとします。
売場マネージャーには現場を商品計画に沿って運営してもらえる様、しっかりコミュニケーションを取ります。そうやって、ブランドの実績伸長を図るのです。
そうした努力にも関わらず、売上全国1番店になった時言われたのが「これ以上売ってもらっては、困るんですよ!」でした。売って苦情を言われたのは、しかも全国売上一番店になって苦情を言われたのは、後にも先にもこの一回だけです。
この会社は大手アパレルで、イギリスのチェックで有名なブランドライセンスを持っていた会社です。今はそのライセンスがなくなり、業績で苦労しています。
百貨店には、その会社からブランド毎に担当営業の多くの出入りがありました。もちろん色々な人がいます。私と友好な関係を築けた方は、転職後の今の仕事になっても繋がっています。
ただこの時の責任者は本当に相性が悪かったのかもしれません。また、業務上そう言わなくてはならなかったのでしょうか。今でも不明のままです。
若い当時の私は血気盛んでしたから、「これ以上売ってもらっては、困るんですよ!」を聞いた時にはかなり強烈な言葉で反論した記憶があります。
ただ、長々取引先の話を聞いていたら、発言のおおもとの理由がうっすら見えてきました。
新宿にあるファッションを主な切り口にする有力百貨店の存在です。その新宿の本店のバイヤーから「売上全国1番店でなくなったら、ブランド取引を休止」と言われた様なのです。
その新宿の本店の取引継続が最も優先順位が高かったのでしょう。銀座のお店での全国売上1番店を認めたくなったということでしょうか。
しかし、どこの商売人が売上を上げて苦言を言われなくちゃいけないんでしょう?沢山の関係者に働きかけ必死に売上を伸ばしたのです。
この話、売場のショップ店長には話せませんでした。日々の努力の成功結果を本社の責任者が否定する様なことを言ったと知ったら、どんな気持ちになるでしょうか。モチベーションを保って日々奮闘する店長には、その後も変わらずの関係を保ちました。
売上を向上するのは、誰か一人、個人的な動きだけで向上するものではありません。ショップ店長、取引先のデザイナー、企画のMD担当、百貨店の売場マネージャー、販促担当・・・協力者は兎に角沢山います。
そうした人々の努力、尽力を簡単に吹き飛ばす様なことは本来なら発言したくないものです。
その取引先の現在の苦境を見る時、その時の言葉を思い出します。商売するにあたって大事な姿勢ってあると思います。売上アップのために努力するスタッフを尊重する姿勢こそが商売にとって大事な姿勢の一つかと思います。