【資本力がある会社の急な拡大路線】
現場で起きたこと
資本力のある会社が新ブランドを作り、軌道に乗せようとすると、一度に十数店舗のオープンを目指す事があります。
2010年代初め、そうした新ブランドの導入がありました。大きな組織の方と関わると、コスト意識や、オープンまでの工夫や知恵など学ぶ点が多いです。
かなりシビアなのだと思います。駅を出てから、館内の出店予定区画までの道線を撮影してプレゼン時に社長に見せなくてはならないそうで、多くの事柄でエビデンスを重要視しています。しかも全ての内容を数分でまとめるとの事。
この業界には「商売勘」というものは確かにあるのですが、大きな組織は概してそういう個人差のあるものを採用したがりません。
誰がやっても同じ結果になるように準備します。そうすると社内プレゼン資料の作りが上手い人が重宝されます。社にとってたとえ良い気づきでも、職人芸のような気づきだけで、エビデンスが無い物なんて別段必要無いのですから。
今回の話題はその時のショップの現場力です。急ごしらえで、あまり力がなかったという話。
資本力の募集で集まったその時のスタッフさん、実際には、いらっしゃいませは言わないし、接客しない。訴求も熱心に行わないし、声も出ないので静か。100坪近い区画がシーンとしていると、それはそれで寂しい感じがして、入店しづらくなります。
それで、私が認知のない新ブランドを訴求しようと、区角前の吹き抜けスペースにボディを設置しました。お客様は気になって触ります。着せ付けが乱れるのは、お客様が注目して触った証拠。
そうしたら、次のお客様に鮮度良く見て頂く為に乱れを直します。そうやって訴求の精度を上げます。
その時のそのショップのスタッフ達は、休憩含めた行き来でその訴求ボディの目の前を通りますが、本当に素通り。折角の訴求物も、お客様に見て頂くのに良い状態にしようとしない訳ですから、困りものです。
ショップ内の扱いインポートブランドの一覧POPも私が作って設置したのですが、そのPOPが曲がったら曲がりっ放し。全く気づきがありませんでした。
今でこそそのブランドは、全国区になり、大型で集客機能のあるブランドに成長していますが、当時の現場力なんてそんなものでした。
急な拡大路線では、集まるスタッフさんの技量には限界があります。当時の私は毎日のようにショップに基本を説いたものでした。
これ以外にも。通販で大きくなったミセスブランドが、実店舗を拡大しようとした時も同様でした。
集まったスタッフさんが急ごしらえなのは見てすぐ分かりました。現場力の習得もこれからの方ばかり。
1週間もしないうちに、出勤したくないとか、辞めたいとか言い出します。その中の1人は、どう思ったのか、お客様用エスカレーターで1階まで移動し、何故か商業施設のインフォメーションカウンターで、「私これからしっかり頑張っていこうと思います、辞めません」と宣言したスタッフもいました。
宣言するくらいですから、きっと本人は本気だっと思います。ただ、誰に何かを伝える時、その対象者が誰なのかが分からないのでは、スタート地点に付けません。
さらに、別のショップです。残業が長びいて、フロアの鉄扉が自動施錠され、閉じ籠められたと思ったスタッフさんが鉄扉を叩き続けるという事象もありました。
残業時にフロア内にいて施錠されたら、ショップの内線から警備室に連絡すれば直ぐ開きます。これも常々運営上の伝達がされていました。
つまり本人にがその事を認識していないか、ショップの連絡機能が悪いだけです。誰か来るまで鉄扉を叩き続ける本人は心細いでしょうが、連絡事項の確認でそんな思いしなくて済みます。
出店時に取引先本部は、案件をシビアに考え、工夫のある準備をし、参考になる動きもし、どんなにエビデンスに忠実で、プレゼン能力があっても、いざ始まったら、現場の力に頼るところが大きくなります。
基本の習得の大事さはこうしたことからも言えます。急拡大できる企業力と現場の力は必ずしも一致しません。そういう意味で、現場を統べる店長やサブ、場合によっては3番手の方の背負っている業務の重さは無視できません。
お客様にとって良い館、良いフロア、良いショップを作る事が望みです。私が基本の習得や実施にこだわり続けるのもこの為です。現場で起きることの本質を捉えて、対応できる力の大事さを考えて欲しいと思います。